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東京都台東区:燕湯
とある地方都市の、名前だけは「湊町三丁目」ときれいだが、
長屋ばかりのド下町のド貧民街で生まれたから、
内風呂なんかなく、小さい頃はずっと銭湯へ通ってた。
一戸建てに越してからは、風呂があるから銭湯へは行かなくなったが、
学生時代は、四畳半ひと間生活だから、また銭湯に通ってた。
銭湯は、その広さとゆったり感も魅力だったが、
知り合いとの社交場みたいな場所でもあった。
ガキンチョの頃は、友達に会ったりで楽しかったが、
騒いでると知らないオジサンに怒られたりした。
お袋と行くと、女湯から、
「石鹸投げるよお」なんてお袋の声が聞こえ、
石鹸が仕切り塀越しに飛んできたりした。
新しい下駄を買ってもらって履いて行くと、
帰りには無くなってて、泣きながら裸足で帰った事もあった。
木のロッカーの「への1番」が好きで、空いてるとしあわせだった。
お爺さんが入ってるとお湯が熱くて、水で薄めるとよく怒られた。
開店早々行くと、外の昼間の光が差し込んで、
その光が照らす銭湯の中の湯気が、もの凄く不思議な場所だった。
銭湯から僕は、世の中の色んな事を身につけたんだと思う。
その頃の料金がいくらだったか覚えてないが、
今は佐賀県の280円が最安で、東京・神奈川の450円が最高だ。
僕の地元には、駅前に温泉施設もあるが、
銭湯は、多摩市に一軒。
徒歩30分だから、気軽には行けない。
もっと日常に溶け込んだ銭湯が近くにあれば、時々行きたいとよく思う。